朝、顔を洗おうと蛇口をひねる。水は当たり前のように出てくる。でも、あの水が家に届くまでにどれだけの道のりを経ているか、考えたことがある人は少ないと思います。今日は、その水の旅を最初から最後までたどってみます。
山に降った雨が、まず水源地に集まる
私たちが使う水道水のほとんどは、もともと雨や雪です。山に降った雨が地面にしみ込み、川となって流れ下る。その途中でダムや河川から取水されるのが、水道の旅の出発点になります。
仕組みとしては単純です。山地は森林が保水の役目を果たし、雨をゆっくり地下や川に流します。急に降った大雨がすぐ濁流になって終わるのではなく、時間をかけて安定した水量を保つ。これが取水を可能にしています。取水口には金網やスクリーンがついていて、落ち葉や魚が入り込まないようにしてあります。
たとえば関東地方のある浄水場では、上流のダムから毎日数十万立方メートルの水を取り入れています。数字だけ聞くとピンときませんが、これは25メートルプールにして何百杯分にもなる量です。それが一日で使われてしまうのですから、水源の管理は思っている以上に綿密です。
ただし、すべての地域がダムや大きな川に頼っているわけではありません。地下水を汲み上げて使う地域もありますし、離島などでは海水を淡水化して使うところもあります。水源のかたちは、住んでいる場所によって案外ばらばらなんです。
浄水場でろ過され、消毒される
取水された水は、そのままでは飲めません。浄水場でいくつもの工程を経て、ようやく飲める水になります。ここが水道水の心臓部と言ってもいい場所です。
まず沈殿池で大きなゴミや砂を沈めます。次に薬品を入れて細かい濁りを凝集させ、それを取り除く。さらに砂や砂利の層を通してろ過する。最後に塩素を加えて消毒し、細菌やウイルスを不活化させます。この一連の流れは数時間から半日ほどかけて行われることが多く、急いで水を作っているわけではありません。じっくり時間をかけて安全性を確保しているんですね。
浄水場の見学に行ったことがある人ならわかると思いますが、沈殿池はまるで小さな湖のようで、静かに水が澄んでいく様子が見えます。透明になっていく過程を実際に目にすると、蛇口の水のありがたみが変わって感じられるはずです。
ここで迷いやすいのが「塩素臭」の話です。塩素の匂いが気になるという人は多いですが、これは消毒がきちんと機能している証拠でもあります。逆に匂いが全くしない水道水があったら、それはそれで別の意味で気にした方がいいかもしれません。ただし濃度は法令で上限が決められていて、目に見えて危険なレベルになることは基本的にありません。
配水池をへて、地中の管を通っていく
浄水場を出た水は、すぐ家に届くわけではありません。いったん配水池という大きなタンクに貯められ、そこから地中に張り巡らされた配水管を通って各地域に送られます。
配水池は高台に作られることが多いです。理由は単純で、高い場所にためておけば、あとは重力で水を流せるからです。ポンプで押し出すよりエネルギーが少なくて済みますし、災害でポンプが止まっても一定時間は給水を続けられるという利点もあります。地図で見ると、浄水場より高い位置に丸いタンクのような施設があれば、それが配水池だったりします。
配水管の総延長は、大きな都市になると数千キロメートルにもなります。日本列島を何往復もできる長さです。この管は道路の下、だいたい1メートルから1.5メートルくらいの深さに埋められています。凍結を防ぐためであり、また道路工事などの影響を受けにくくするためでもあります。
迷いやすい点として、古い配水管の老朽化があります。高度経済成長期に一気に整備された地域では、管の更新時期が重なっていて、漏水や破裂のニュースを目にすることもあります。これは水道の背景を知るうえで避けて通れない話で、更新には時間もお金もかかるため、地域によって進み具合に差が出ているのが実情です。
家庭の蛇口まで届く、その最後の数メートル
配水管から枝分かれした給水管が、ようやく各家庭に水を届けます。蛇口をひねって出てくる水は、ここまで来てようやく私たちの手元に届いたことになります。
家の前の道路には水道メーターが埋め込まれていて、そこを通った水量が記録されます。使った分だけ料金がかかる仕組みは、この計測があってこそ成り立っています。集合住宅の場合は、いったん屋上や地下の受水槽にためてから、各戸に配る方式をとっているところもあります。マンションに住んでいる人が「うちは受水槽があるらしい」と聞いたことがあるなら、それがこの仕組みです。
たとえば一戸建てで朝7時、家族4人が一斉に洗面や炊事で水を使う場面を想像してみてください。同じ時間帯に近所の家々も同じように水を使っています。それでも水圧が大きく落ちないのは、配水池からの水量と管の太さが、あらかじめそうした需要を見込んで設計されているからです。
ここは少し意外に思われるかもしれませんが、水道水の水圧や水質は、家の中の配管によっても変わります。古い建物で鉛管が使われている場合、水質に影響が出ることがあり、自治体が交換を呼びかけているケースもあります。すべての家が同じ条件で水を受け取っているわけではない、というのは覚えておいてもいい点です。
使われた水は、下水としてまた別の旅に出る
蛇口から出て、料理や洗濯、トイレに使われた水は、そこで終わりではありません。下水道を通って処理場に運ばれ、また別の工程を経て自然に戻されます。水道の話は、実は「届くまで」だけでなく「戻るまで」もセットで考えると全体像が見えてきます。
下水は自然の勾配を利用して処理場まで流れていきます。途中でポンプ場を経由することもあります。処理場では、沈殿・微生物による分解・消毒といった工程を経て、川や海に戻せる水質まで整えられます。浄水場の工程と似ていますが、目的が逆であるところが面白いところです。汚れを取り除いて自然に返す、という方向の処理ですね。
雨の日に排水溝から水が溢れそうになっている場面を見たことがある人もいると思います。あれは下水道の処理能力を、短時間に降った大量の雨水が上回ってしまうために起きます。都市部ほどこの問題は起きやすく、大雨のたびにニュースで取り上げられるのはそのためです。
ここで一つ、判断が分かれるところがあります。合流式と分流式という下水道の方式の違いです。合流式は雨水と生活排水を同じ管で流し、分流式は別々の管で流します。古い都市では合流式が多く残っていて、大雨のときに未処理の水が川に流れ出てしまうことがあります。分流式への切り替えは進められていますが、地域や予算の事情でまだ移行の途中というところも少なくありません。水道の背景を知ると、こうした地味だけれど生活に直結する課題にも自然と目が向くようになります。

